「歯牙移植」~インプラントに代わる自然な選択肢~
2025年5月26日
エストデンタルケア南青山橋本です。
初夏の訪れを感じる頃ですがいかがお過ごしでしょうか。
今回は歯牙移植についてお伝えしていきます。
虫歯や歯周病、事故などによって歯を失ってしまったとき、どのような治療法があるかをご存じでしょうか?ブリッジや入れ歯、そして近年主流となっているインプラントが代表的な治療法です。しかし、それらとは異なる「自分自身の歯を使う治療法」として注目されているのが歯牙移植(しがいしょく)です。
【歯牙移植とは?】
歯牙移植とは、自分の口の中にある健康な歯(主に親知らずなど)を抜き、歯を失った場所に移植する治療法です。英語では「autogenous tooth transplantation」と呼ばれ、日本語では「自家歯牙移植」ともいいます。
たとえば、虫歯で第一大臼歯(奥歯)を失った場合、まだ使われていない親知らず(第三大臼歯)をそこに移植し、新たに「機能する歯」として再生させることが可能です。
この治療法の鍵を握るのが「歯根膜(しこんまく)」という組織です。歯根膜は歯と歯槽骨(しそうこつ)をつなぐ組織で、血流・神経・免疫反応に関与する極めて重要な構造です。歯根膜が生きた状態で移植できれば、歯が再び骨と結合し、咀嚼機能を取り戻すことができます。
【歯牙移植が選ばれる理由】
1. 生体適合性が高い
歯牙移植では、自分の口の中にある健康な歯(多くは親知らず)を別の場所に移植します。自分の組織であるため拒絶反応が起きないのは非常に大きなメリットです。これは、異物であるインプラントとは大きく異なります。さらに、移植後の歯周組織とのなじみも良く、感染リスクが低いです。
2. 咬合が自然に近い
移植歯がうまく定着すると、「歯根膜(しこんまく)」という組織が再生します。これは、噛んだときの感覚や圧力を感じ取る神経に関わる大切な組織で、人工の歯にはありません。そのため、自分の歯で噛んでいるような自然な感覚が得られます。
3. 成長期の子どもにも対応が可能
インプラントは骨の成長が終わるまで避ける必要がありますが、歯牙移植は成長中の顎や骨の発達に柔軟に対応可能です。これにより、若年期に早期の対応ができ、将来の治療計画にも良い影響を与えます。
4. 顎の骨の吸収を防ぐ
歯根膜は噛むたびに顎の骨に微細な刺激を与えます。これにより骨の代謝が活性化し、骨が痩せる(骨吸収)現象を抑制します。インプラントではこの刺激が得られず、長期的に見ると骨が減ってしまうことがあります。
【歯牙移植の適応条件】
歯牙移植が成功するためには、いくつかの条件が必要です。
歯牙移植が可能な症例(ケース)
【症例1】第一大臼歯(奥歯)を虫歯で失い、親知らずを移植
30代男性。左下の奥歯(第一大臼歯)を虫歯で抜歯
レントゲン検査で、未使用の親知らず(第三大臼歯)がまっすぐ生えており、歯根も適度な長さだったため、移植を実施。固定後約2ヶ月で咬合回復。根管治療後にクラウンを装着。
→ 典型的な歯牙移植の成功例
【症例2】外傷で前歯を失った10代の学生、矯正抜歯予定の小臼歯を利用
15歳女性。自転車事故で上顎中切歯(前歯)を脱臼・失歯。
矯正治療で小臼歯を抜歯予定だったため、その歯を前歯部に移植。歯根が未完成であったため、再生能力が高く、歯根が成長を続けた。
→ 成長期における自家歯牙移植の良例
【症例3】歯周病で抜歯した部位への移植
60代女性。下顎の奥歯を歯周病で抜歯。
親知らずが健康だったため、除去後すぐに移植。やや歯槽骨の吸収があったため、骨補填材を併用し安定化を図る。術後のセルフケアと定期管理により、3年以上機能を維持。
→ 中高年でも管理次第で成功可能な症例
【症例4】先天欠損(永久歯が生えてこない)への対応
10代後半の男性。下顎第二小臼歯が先天的に欠損。
矯正治療中に抜歯した親知らずを、欠損部位に移植。骨や歯根膜の状態が良く、1年後も良好に機能。
→歯の先天欠損への適応例
【移植歯に関する条件】
- 健康な歯であること(虫歯や歯周病がない)
- 根の形が単純で、抜歯しやすい構造
- 歯根が未完成(10代後半など)の方が成功率が高い
【移植先に関する条件】
- 骨が十分に残っており、歯を固定できる状態であること
- 感染や炎症がない
【全身状態・患者の協力度】
- 糖尿病などの全身疾患がコントロールされていること
- 定期的に歯科通院できること
- 術後のセルフケアがしっかりできること
歯牙移植の治療の流れ
1. 診査・診断
レントゲン、CTなどの画像診断を行い、移植歯と移植先の評価を行います。
2. 移植手術
歯根膜を傷つけないように慎重に抜歯し、速やかに移植部位へ挿入します。移植後は歯をワイヤーや接着剤で固定します。
3. 経過観察・根管治療
多くの場合、移植した歯は神経が壊死するため、数週間以内に根管治療(歯の中の神経を取り除く治療)が必要になります。
4. 補綴治療(被せ物)
歯が安定し、骨との結合が確認できたら、クラウン(被せ物)を装着し、見た目と機能を整えます。
【歯牙移植の成功率】
◎ 全体の成功率(70~90%)
複数の文献や研究に基づくと、歯牙移植全体の成功率は70~90%程度です。これは医療技術の進歩、術前評価の向上、そして患者の自己管理の重要性が影響しています。
◎ 高成功率のケース(90%以上)
特に次のようなケースでは、成功率が飛躍的に高まることがわかっています:
•未完成根の歯(10代~20代前半):成長途中の歯は、歯根膜や神経の再生能力が高く、移植後の適応力も高いです。
•親知らずの移植:親知らずは使われないまま残っていることが多く、歯の質が良好なことから、移植先として最適です。
成功に影響する要因
△ 成功率が下がるケース
以下の条件下では成功率がやや低下する傾向があります:
•高齢者(特に歯根膜の再生能力が低い場合)
•歯根膜が損傷している
•歯周病が進行している口腔環境
•噛み合わせのバランスが悪い
◎ 術後の口腔ケアの重要性
•適切なブラッシングと歯科医院での定期クリーニング
•噛み合わせの調整
•再感染を防ぐための抗生剤の使用など、術後管理
これらのケアが不十分だと、せっかく成功した移植歯が数年以内に失われてしまうリスクがあります。
- 長期的な見通し
◎ 定着後は10年以上機能する例も
うまく定着した場合、10年以上安定して使用できるケースが多く報告されています。天然歯と同様の感覚を保てるのが最大の魅力です。
△ 定期的なフォローアップが不可欠
定着後も半年~1年に1回のレントゲン検査や歯周チェックが必要です。トラブルが起こっても、早期に対処すれば長持ちしやすくなります。
よくある質問(Q&A)
Q1. 誰でも歯牙移植は受けられますか?
→ 必ずしもすべての人が適応とは限りません。適切なドナー歯(移植歯)があること、骨の状態が良好であることが前提です。
Q2. 移植後、どのくらいで噛めるようになりますか?
→ 個人差はありますが、固定が外れて根管治療が完了するまでに約1~2ヶ月ほどかかります
まとめ
歯牙移植は、単なる欠損部の補綴にとどまらず、「自分の歯を最大限に活かす」自然派の再生治療です。咀嚼感覚の自然さ、生体への親和性、さらには成長期への対応など、多くの面で優れた選択肢と言えるでしょう。
もちろん、適応には条件があり、インプラントやブリッジが適しているケースもあります。大切なのは、「自分にとってベストな選択を、信頼できる歯科医と一緒に見つけること」です。
当院では専門家としての知識や経験にもとづいた知見により、患者さんにとって「適切かつ必要な治療法」を考えてご提案いたします。
また当院では、患者さんとの時間を何よりも大切にしております。
治療を丁寧にしっかりと行うために、患者さんお一人に十分な診察時間を確保しています。
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